
親の撮る、愛する我が子の写真と、私たちが撮るお客様の写真。
その決定的な違いとは一体何か。そう考えた時に、前者を被写体と長い時間を共有してきた者だけが撮ることが出来る、いわば「ドキュメンタリー型写真」。そして後者を、「第一印象型写真」と別けることが出来る。
「誰かに初めて会って、その瞬間に撮った一枚が最良のポートレイトだ」。そんなアンリ・カルティエ=ブレッソンの言葉には、出会って間もない人間の方が、より感覚的に被写体との関係性をおさめることが出来るという意味が含まれている。
そして、この言葉を念頭に撮影に臨んでみると、能動的に自分が撮りたい画をイメージするようになる。
私が抱いた彼女の第一印象は、表情豊かに良く笑う可愛いらしい女の子であると同時に、若干2歳ながらにして、ふとした瞬間に少女特有の何とも言えないオーラを放つ、そんな子であるということだった。
そして出会った瞬間、カメラマンとして彼女の持つその相反する二つの魅力を、写真におさめたいと強く感じた。
それは16時という撮影開始時間。
自由ヶ丘店の特長でもある全面ガラス窓のこの部屋は、露出がころころ変わる撮影において非常にやっかいな時間帯であると同時に、傾きかけた太陽の光という自然からのプレゼントを味わえる貴重な時間帯でもある。
そしてこのプレゼントはほんの数分間しか味わうことができない儚い瞬間であるがゆえに、本当に美しい。
カジュアルな服での撮影を先に済ませ、私は「その時」を待ちながら、一番美しい瞬間を逃さないよう常に集中力を持ってファインダー越しに彼女を見続けていた。
彼女の小さい体が、その光を遮った瞬間、全身の毛穴が開く感覚を覚え、呼吸をするのも忘れた。
アシスタントを止め、さっきまで笑顔だった彼女から笑みを消す。
私が第一印象に感じた、少女特有のオーラをより印象的に写し出したかったからだ。
それは、さきほどまでの撮影とはまた違う緊張感でシャッターを切った瞬間だった。