
背景という要素・情報を排除した
なにもないシンプルな空間は
主題に集中せざるを得ない。
そのため背景紙での撮影は
主題への減算的アプローチであると言える。
ファッション雑誌にある、背景が単色の写真も
主題(すなわち洋服)への集中という意味で言えば
効果的な使い方である。
また、日常には単色の背景に囲まれる状況はほとんどないため
非日常、異空間の演出という意味合いもあるだろう。
もちろんそれが主題の表現において最適なわけでない。
自然な写真かどうか、で言えばそうではない場合も多く
また、合目的で、より多様な対象は、目を、感情を喜ばせるという
ある美学の観点から見れば、その単純性は今ひとつ物足りないとも言える。
そのため撮影者には、無背景に意味や必然性をもたせることをはじめ
その単純性と複雑性、集中と分散のバランスを意識しなければならない。
マタニティ写真は主題が明確な写真であるため
かえってそのバランスをとるのは難しく感じる。
あらかじめ確かなことを確からしさを失わずに
その特質を保つには簡単ではないからだ。
この写真を撮影するとき
少しでもその単純性から抜けだそうと試みた。
自分の人生の1つの分岐である妊娠・出産の時期に
自分の内面に、生まれてくる子どもに静かに深く入っていくような様子。
この写真が多様であるわけではないが
いくらか目を、感情を喜ばせることには成功したように思う。