フォトジェニックアーカイブPhotogenic Archive

排他性

投稿日:2010/7/21

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この場所に彼を連れてきて、こう撮りたいなというイメージが、僕の中にあった。ちょっと遠くを見て考え込むような、何かに思いを馳せるような、そういうイメージ。例えるなら“夏休みの終わり”…この場面では彼のそんな、ちょっとした切なさや寂しさを表現したいなと思っていた。 . 日が傾いた時のようなオレンジ色の柔らかい光が彼の後ろに差していて、手入れがされていない荒廃さの残る植物や、カットされたジーンズ、虫に刺された脚、裸足…それらすべてが自分の表現したいイメージに重なってきた。 排他性。 世界に、彼とこの景色しか存在しないような確かな排他性がそこにはあった。 . それまで近くにいたパパやママに少し離れていただき、カメラマン(僕)とアシスタントも少し彼と距離を置き、さぁいつもと違う彼の表情を引き出してみようと思った。ここからあとは自分の腕。どうフレーミングするか。どうポージングを付けていくか。 . 全体の雰囲気をとらえるため、70-200mmの望遠レンズを構え、左側の壁の割合やどこまで高さを残すかを頭の中で計算して、さらに奥行き感と色味を加えるため、後ろの緑がどれくらい入ると美しさが際立つかを考え、少年の身長(大きさ)などを加味した上で今のポジションをキープする。 . だけどここでひとつ大きな問題として立ちはだかったのが“光”であった。この時期のこの時間は、立地的に建物の陰で人物に当たる光の量が少し足りない。 目で見える光と、写真に残る光の具合は若干違うということを僕はこれまでの経験で何となくわかっていたし、写真は光で表現する。この光の量ではその概念から外れてしまうのも分かっていた。適切な量の光がない場所でいい写真は撮れない。頭では理解している。このまま撮影すると光の量が足りない関係でどうしても人物の肌の色が若干くすんでしまうというか、青みがかって見えてしまうなと思った。思ったけれどまずは試しにシャッターを押してみた。表現したいイメージに近付けるためカメラの設定を変えつつ、イメージする色味や構図を頭の中でぐるぐるぐるぐると巡らせる。 . この時点で撮影が始まって20分くらい。撮られることに慣れてきた彼はもう完全にリラックスしている。そして撮影を楽しんでくれている。ただ今は凛とした空気感を演出しようとしているのに(笑)、後ろに手をついて声を出して笑う。一人ぼっちにしたのにまだなぜか楽しそう。楽しんでもらえてるんだなというのがありありと伝わってきた。だから1枚だけ、その表情も残してみた。もしきちんと撮れていなかったら…という不安から、僕はこういう一瞬の仕草を被写体がしたときに無意識で何回かシャッターを押してしまうのだが、このときは本当に一枚だけ。覚悟を決めてシャッターを切った。 ただ、一回シャッターを押して撮れたという確固たる自信もあった。 . 彼をこの場所に連れてきて、頭の中のイメージを表現するためカメラの設定を変え、彼がこの表情をするまで1分ほど。その1分ほどの間に自分はいろいろなことを考えた。どう表現するか。どう残すか。どう彼と向き合うか…。 . そのあと、足を組んだり腕を組んだり遠くを見つめたりポーズをとって自分のイメージに重ね合わせ、何枚かの写真を撮った。彼の、それまでに見せていた表情とは異なる写真を残せたように思う。でも結果、写真を撮ったその時も、写真を見返している今も、僕が一番気になっているのが1枚だけ残したこの彼だった。 写真を残すうえでポージングも大切な要因のひとつである。それもまた真実。しかし僕個人の感覚として、作ろうとしてはみ出した部分にも、その子の個性や存在というものが現れるのではないかと思った。

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