
生まれたばかりの赤ん坊は、自分自身と外の世界との境界線があいまいで、外界と自己との区別がはっきりしない世界に生きているのだそうです。
自分の意識世界がこの世の全てであり、その中で発生する感情や、わずかに伝わってくる感覚こそが世界で起こる現象の全て。
そんな世界が、ある時を境に徐々に広がっていくのです。
手や肌に触れるものが自分以外の存在であると気づくのと同時に、自分自身の存在にも気がつく。
目にするもの、手に触れるもの、すべてが新しい世界とはいったいどんなものなのでしょう。誰もが経験しているはずなのにだれも知らない世界。
ガラスのひんやりとした冷たさと硬さ、太陽の光の温もりとまぶしさ、草木のしなやかな力強さと儚さ。
子供たちは、それがまるで必然的に引かれ合うかのように手を伸ばし確かめようとします。
しかし、いつしか私たちは手を伸ばすのをやめ、心のなかに見えない壁をつくり、時には引かれ合うことさえ恐れるようになってしまいます。
ほんとうは手に触れて確かめたいのに、それが手に触れた瞬間、もろくも崩れ去ってしまうのではないかという恐れから諦めてしまっているかのように。
「ただ手を伸ばせばいい」
この写真がそんなことを私に教えてくれているような気がします。