
――冒険者たち
その言葉の語感の良さは異常だと思います。特に男子にはより一層この感覚が伝わるのではないかと思います。音の喚起するイメージ、それを別の言葉に置き換えるのはとても難しいのです。その言葉の響きには、未来を指し示すような意志的な力を感じますし、非現実的な壮大さや雄大さを感じずにはいられません。この言葉の響きをひたすらにイメージし、それを写真として残すにあたり、選択肢は数限りなくあると言っていいと思います。明るいイメージを想像する人もいますし、土臭いイメージを想像する人もいることでしょう。ドラクエやFFなどのRPGゲームを連想する人もいるでしょうし、ムーミン谷にいるスナフキンをイメージする人もいると思います。単に「どこかへ旅立つこと」を冒険だと捉える人もいるでしょうし、「世界の平和のために悪者に立ち向かうこと」や「僕たちの生きる人生そのもの」が冒険だと捉える人もいると思います。どの言葉を並べようとも、そこに後ろ向きな意味合いはありません。祈るように願っていたあの頃とは違い、願いを叶えるために立ち上がるのです。
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そう、子どもたちはいつだって、誰よりも冒険心溢れる心を持っているのです。
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たった一つの単語から様々なイメージが生まれますが、そのイメージや選択肢がカメラマンやコーディネーターの中にどれくらいあるかということも写真を残す上で重要な要素の一つであると考えます。
子どもの動きをとらえ、その姿をありのままに映し出すのも一つ。
こうしてイメージを先行させて自分がその非現実的なイメージを作り出していくのも一つ。
そのどれを選択するのが被写体にベストなのかということを、瞬間的に、または短い時間の中で考えなければいけません。
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まず僕は外が見えるこの部屋をチョイスしました。室内のライトをすべて消し、外から降り注ぐ光を室内にも取り込みます。「冒険」と言ったら開放感のあるこの部屋が僕の中でのベストポジションです。そして、これからの旅立ちを暗示するように長年使い込んだような薄汚れたカバンを用意します。兄のTaiseiくんはそこにどっしりと座ります。旅立ちの前の静かな決意。その堂々とした姿が印象的です。ですが、妹のNanaちゃんには冒険に行くには不釣り合いな花束を手に持たせます。これは単に僕の遊び心です。本当は松明(たいまつ)を持たせたかったのですが、松明なんてものはスタジオにはないので、これは僕の見立て遊びです。子どもがおままごとをするような雰囲気で、何かを何かに見立て、子どもたちとその空気を深めていきます。一見違和感の残るアイテムですが、昼間ですし、松明よりもかわいい感じがするのでこれはこれで良しとします。Taiseiくんのポージングは本人の考案です。自分が一番良しと思い試みたポーズがこの写真をより一層面白くさせてくれる要素となりました。