
彼に会うのは今回が3回目でした。
ですがこの日、私は彼から「はじめまして」と挨拶をされました。
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味もそっけもないようなこの空間を、それまで私はずっと避けてきました。洒落た小物もなければ、色味もない空間だからこその難しさがいつも私を遠ざけてしまっていたように感じます。
ですが、「この場所が横浜店の最大の武器だ」と、インテリアの改装工事をする前にある人物が口にし、その言葉を聞いてから、撮影に入るときに私は必ずこの場所で写真を撮るように心がけてきました。
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この壁の前でここ数ヶ月集中的に写真を撮り、何枚も写真をUPをしてきました。繰り返し撮っていくうちに何もないこの空間に誰よりも愛着を持てるようになってきました。ですが、撮っていくうちに自分の写真の撮り方が凝り固まっていくようにも感じたのです。
何もない空間だからこそ、被写体の気持ちや仕草、自分のイメージを最大限に活かせる空間であることに気づきながらも、そのイメージをどう形にしていくことが最たるものなのか撮れば撮るほどわからなくなるのでした。
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今回のインテリア工事では、この壁にはいっさい手が加わりませんでした。そのままです。そのまま残ったのです。そのまま残したのです。ですがこの部屋の隣の部屋の壁が取り払われたことで、以前の倍以上の開放的な広さを手にすることができました。
その開放的な空間を最大限表現するために人物は隅に寄せました。広い空間にポツンと座る彼はアシスタントや自分のパパやママの声を受けて目線を上げました。
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せいぜい8畳ほどの白い世界に更に広がりを持たせるため、私はこの白いキャンバスに贅沢な余白を持たせました。
世界にはいろいろな色があって、どの色にもその色の豊かさがあります。その色の持ち味があります。曇った日にだって青いビニール傘をさせばそこには青い空が生まれます。それと同じ。
どんな色を足すかは自分次第。
色を足さずに、真っ白なまま活かすのもまたひとつ。見方や角度を変えながら、僕はこの白いキャンバスにいろいろな色を塗っていけるカメラマンになっていきたいと思いますし、これからもこの空間を愛していきたいと思います。