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縦位置の構図は、私たちが日頃肉眼で見ている世界や、movieなどの動画にも無い構図であり、同時に人間などの縦長のモデルを撮る際、無駄な空間を少なくすることが出来る、言わば引き算のしやすい構図でもある。
カメラさえ構えなければ、私たちは横位置の世界に安住する。想像力と構図の構成力の求められる縦長の世界は、カメラを構えた人間ならではの独特の世界だ。だからこそ、探求することに面白みを感じずには居られない。
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まず私が縦位置構図のこの写真を撮る際に重要視したのは、視線の誘導線。
主題をS字に形つける事で、S字の視線誘導線を試みた。
左から右、右から左、左から右とリズム感をだしながら上下し、見る人の視線を誘導することにより、自然に写真全体を隈無く見させることが出来る。視線誘導線を利用することにより、そこに写し出されている物をより集中的意図的に表現することが出来る。パッケージデザインによく使われる手法である。
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この子はベルが本当に大好きで、ずっと同じおもちゃで遊んでいた。
きっとこの子の今のマイブームがそれなんだから、このままでもいいじゃないか。と思うものの、やはりずっと同じおもちゃが入るのは、商品として提示する上でいかがなものだろうとも思う自分もいた。
しかし、2歳の子供の執着心と集中力は果てしない。きっとこのおもちゃを取り上げようものなら、泣いて機嫌を損ねてしまうだろう。
必要なのはちょっとの色彩構成と、意図的な構図構成だった。
私に出来ることは、「女の子だからね」と言ってオムツを隠す為にそっとリンゴを置くことと、ベルの色味を合わせて用意すること。そして、フレーミングだった。
彼女がベルを重ねるという秩序的行為に集中していることは分かっていたから、それをいかに写真に収めるかに私も集中した。出来上がった写真に不器用で柔らかい「S」が描かれた。これが私が見せたかった視線誘導線である。
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