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私たちには、写真を撮ること以外に注力すべきことがある。
それは撮影中の雰囲気は言うまでもなく、その写真を形成する素材を提供することである。
すなわち、その子をプロデュースするということ。どんな髪型が服が似合って、どんな小物でよりその子の良さが際立つのか。それを見極め、提供する力が必要なのである。
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例えば、人見知りの彼女は、初めて会った時とても硬い表情で物々しいカメラを構えた私を見ていた。その目には嘘が無く、私に心を開いてないことなんて誰が見ても容易に了解することが出来た。彼女の目にはとても説得力があった。
とかす前の乱れた髪の毛と、いつもお家で来ているみかん柄の洋服。
それに物静さを兼ね揃えた彼女が、1時間後どのように変身しフレームに収まるのだろう。
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乱れた髪から控えめに覗く彼女の顔はとっても可愛いく女の子らしいもので、「彼女は化ける」私の中に一瞬にしてシナリオが出来上がった。女の子の撮影に限って、そういった確信に似た直観を感じることが度々ある。
だからこそ彼女には最初にボーイッシュな格好をさせた。1時間の撮影時間の中、小物を変えるだけで、上着を脱ぐだけで、髪型ひとつで変わる、女の子ならではの変貌を紡ぎたかった。
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上着を脱ぎ、帽子をとって髪を下ろす。
それだけでグンと女性らしくなるから女の子は不思議だ。
窓近くのベッドには、やさしい光が贅沢に当たる。
渡した本に夢中になる彼女に
私は声をかけた。
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数日後。
彼女の写真を何度も見返していて、目に留まったものを挙げていく。
気づいたのは、その殆どが私をじっと見ているものだったということ。
彼女の目には何とも言えない説得力があった。
75カットの写真。その視線だけを見れば、全てが分かる。
そんな、ゆっくりゆっくりと私に心を開いてくれる彼女の一瞬一瞬を、私は見守るようにシャッターを切っていた。
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