
写真には何が写るのだろう。
相変わらずそんなことに頭を悩ませている。
当たり前のことだけれども、写真はカメラの目の前にあるものしか写すことが出来なくて、
カメラマンは写したいもののために全ての技術を注ぎ込む。
カメラマンにとって重要な技術の一つとして、「人を動かす力」と言うの
がある。
どんな人もカメラを向けられて、自然にして下さいと言われても出来ない
し、笑って下さいと言っても笑えない。
ましてや、こんな雰囲気でとかこんなポーズでと慣れない事を要求されて
即座に応えられる人はまずいない。
そこで「人を動かす」技術というのが必要となってくる。
今回、スタジオに撮影に来て下さったこの少女は、バレエをやっているこ
ともあり、身のこなしがしなやかで無駄な力が抜けていたので自然なしぐ
さやポージングを見せてくれた。
表情も大人びていたし、その反面あどけない笑顔も見せてくれた。
今までだったらここで満足していたと思う。
しかしこの時、カメラマンとして一つの欲が出てきた。
「あまり表に出ていないこの子の感情を描きたい。」
撮影をしながら話を進めていると、もうすぐバレエの発表会があるという
。
楽しそうに話している彼女はどんな気持ちでその日を迎えるのだろう。
きっと不安も抱えているのではないだろうか。
まるでイメージトレーニングをするようにその状況に立ったときのことを考えてもらう。
きっと彼女の目には舞台に立つ自分を見つめる大勢の観客が見え、これか
ら披露する踊りの内容を確認し、今までの大変だった練習の日々を思い出
し、ほんの少し自分を奮い立たせる自身を垣間見たのだろう。
それを感じた瞬間に撮った写真が今回ご紹介するこの一枚。
今までの努力の成果と、目の前のプレッシャーとのせめぎ合いがその視線や口元から感じられる。
8歳の少女というと、大人からしてみればまだまだ幼く、毎日起こる出来事に目を輝かせているようなイメージをもってしまう。
しかしこの子なりに不安を感じたり、悲しみを感じたり、大人と全くかわらない感性を持っている。
自分も幼い頃そうだったことを思い出すと同時に、
こういった一つ一つの感情の積み重ねが大人へと成長させてくれることを感じる。
写真が人の心の奥底まで届いて、それを形に出来る事をこの少女が教えてくれた。
そして被写体の内面を表情に呼び起こし、人の心を描き出すことがこんなに美しいことなのだと感じた。
実はこの後、舞台が大成功で拍手喝采のシーンもイメージしてもらった。
その時の笑顔は子供らしく、心から喜びを感じている表情だった。