フォトジェニックアーカイブPhotogenic Archive

決定的瞬間

投稿日:2011/9/30

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同じ言葉を色んな被写体に投げかけてみる。

すると、それぞれ返ってくるリアクションが違っていて面白い。

私はよく「抱きしめて下さい」という言葉を、被写体に渡してみる。

すると、優しく抱きしめる人、顔が潰れるまで抱きしめる人、後ろから抱きしめる人…それぞれ色んな抱きしめるがあった。

 

それは決して写真のパターン化ではなく、

私が投げかけた言葉で被写体がどう動くのか、それが決定的瞬間に繋がることを願って用意した言葉だった。

 

ある日、アシスタントと話をした。どんな写真を撮りたいのかの話だ。

私は、小物を渡すとき、お願いだから何の説明もしないで下さいと言った。

なぜなら、ある程度経験を積んだカメラマンにとって、写真のパターン化ほど、安全で危険なものはないからだ。

例えばカメラの小物を渡すとき、少し自我が芽生え出したこどもに

「ここを巻いて、ここのボタンを押して…」そんな小難しい文句を並べることを想像してほしい。

その後に被写体が起こす行動なんてものはだいたい予想がつくし、それは同時に、どんな写真になるのかを意味している。写真のパターン化。それは至極、安定的でつまらないものだ。

 

こどもによって「カメラ」の捉え方が違う。

縦に構える子もいれば、裏表逆に構える子もいるし、いきなり口に運んでしまう子もいるし、床に投げつけて弾けるように笑う子もいる。

それがその子にとっての「カメラ」だし、私はそれを撮りたいと思う。

 

 

この写真の男の子もそうだった。

アシスタントのkajiwaraさんが、説明をせずサングラスを渡してくれた。

男の子は少し考えて、顔にぎゅうっと押し当てた。

目には合っていないけど、付け方はちょっと違うけど、

とにかくとにかく、とても楽しそうだった。

彼が楽しそうならそれでいい。

これが、彼の「サングラス」。決定的瞬間だった。

 

 

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