フォトジェニックアーカイブPhotogenic Archive
光の微笑
投稿日:2011/11/28
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ずっと待っていた瞬間が訪れたようだった。
親御さんの大人っぽい写真をという言葉とは相容れない程の無邪気な笑顔を携えた少女。
言葉を発することなく、深とした空気を作る為に身振り手振りだけでポーズを支持するも、遂に笑いを堪えられなくなってその空間が笑い声で満たされる。
そんな魅力を持った女の子だった。
この子とであった時、不思議と僕は、今日自分はここにフォトジェニックを撮りに来たと感じた。
一瞬で彼女の魅力に引き込まれたのだろう。
溢れ出る笑顔とそれを抑えた時の凛と張り詰めた表情。
その均衡はまるで針の先の様な刹那を感じるようだった。
今まで研究し続けていたライティングをこの撮影で試みようと思った。
被写体には直接光を当てず窓からの弱い自然光だけで表情を描こうと。
しかしその思惑は外れ、時間が光を奪うように外は暗くなっていった。
そして光を変えた。
キャッチライトを入れる為に点けていた光もすべて消し、壁に当ててバウンスされる逆光のみにした。
白い部屋でわずかに回る光と逆光による輪郭線をなぞるハイライト。
小さなその手で首に巻いた毛皮の襟巻を掴んでもらい、そこに視線を落としてもらう。
手と横顔と光だけで作った一点に集中させることだけを考えた。
彼女が表現してくれる、こちらの想像力をかきたてる様な小さな女の子の心情が表情から読み取れるように。
それが表現される為に必要なもの以外は排除した。
6歳の女の子に感じる大人の雰囲気、その表情に残るあどけなさ。
僅かにほころぶ口元。抑えられた静かな微笑。
左に大きく開けられた空間は上記した凝縮された一点の反動のように、集中させられたエネルギーが解放される様に広がる。
二つの空間が画面の中で対比し両立する。
先日、アップしたフォトジェニックも横顔を写したものだったが、僕は今、横顔に魅せられているのかもしれない。
今回撮った一枚はbabyの横顔とは全く質の異なるものだが、なぜ横顔を選択したのかについても考えてみる。
今回のライティングは逆光、正確には半逆光くらいの角度だが、逆光の一番の効果はやはりアウトラインのハイライトだろう。
人間の顔を逆光で写す時、顔の表情ではなくそのアウトラインの表情が一番現れるのが横顔なのではないだろうか。
額、鼻筋、口元、顎と凹凸があり、それらが生むリズムが小気味よく光で露わになる。
この写真の場合、半逆光の為、目元と頬のラインにも同じ効果が表れ、よりその魅力を感じる事が出来る。
しかし横顔ではその人の表情が不鮮明になり、イメージが曖昧になってしまう。
その為に手元を写す理由が出てくる。
目線を落とす目的地を設ける。それが今回の場合、「手」になる。
襟巻を手で掴むという仕草に目線を落とす事によって、仕草と表情に繋がりを与える。
僅かなそれだけの行為が、光によってほんの少しだけ描かれた目元の表情そして口元の表情へと繋がり、僅かな表情の表現を補っていく。
そして一つのイメージとして繋がっていく。
イメージを決定づける要因として大きいもう一つの要素として色についての考察だが、まず、彼女の個性とも言える明るい性格、
そして零れる笑顔から考えると、やはりここは暖色を選ぶ事になる。
身に付けた帽子と光に透けた髪の毛の色がどちらも茶系の色味。
全体的に影の占める領域が多いこの写真でも暖かみを感じる事が出来るのは、この色による要因と、この子が優しく笑みを浮かべているからではないだろうか。
また、毛皮のふわふわな素材感もそれを手伝っていると考える
横位置でこの一枚をフレーミングした理由は上でも述べたように、沢山の要素を望遠気味のレンズで圧縮、集中させると同時に開放感を感じる空間を作り出したかったから。
それによってイメージが無限大に拡がって行くように描きたかったからである。
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