店舗フォトジェニック集
Photogenic
This is it
投稿日:2025/8/12
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白。
それは色の無い色であり、すべての色を飲み込んだ色でもあります。
光が揃えば白になり、白に影が差せば色が生まれる。
今回の写真は、その“白”を舞台に、一人の少年を主演に据えました。
背景は白ホリ。
潔さすら感じる無地のキャンバスは、何も語らないからこそ、すべてを語れる舞台です。
そこに立つのは、白いシャツ、白いパンツ、そして白いハットをかぶった少年。
白に白を重ねることで、服という存在感を限界まで薄め、残るのは「姿」と「光」そのもの。
いわばこれは“余白の服飾”です。
後方にはLEDライトを一灯。
照明はただの道具ではなく、この作品における“もう一人の登場人物”でした。
真後ろからの光は、少年の輪郭を金色に縁取る。
そしてレンズの角度をほんの数度ずらすたび、光は薄膜のように屈折し、レンズ内で小さな虹を孕む。
その瞬間、フレアは偶然の顔をして、必然の位置に落ちてくる。
「光のいたずら」と呼びたくなるのに、それは計算された戯れです。
この写真を撮るにあたり、頭に浮かんでいたのは、マイケル・ジャクソンの映画『This is it』のワンシーン。
舞台袖から差し込む光を背に、彼が立つあの姿。
音が聞こえないはずなのに、見る者は勝手にビートを刻み始める。
今回の少年もまた、静止しているのに踊っているように見えます。
足の角度、肩の傾き、そしてハットのつばの影が落とす目元の陰影。
それらが組み合わさることで、写真は静止画でありながら「音楽的」になるのです。
白は本来、主張しません。
しかし、背面から射す光と、微細なフレアが、その無口な白を饒舌に変える。
写真全体がまるで“息を吸い込む瞬間”のような緊張感を持ちます。
息を吐けば、少年は動き出すかもしれない。
しかし吐かずに見つめることで、この瞬間は永遠になります。
私は、写真の分析をするときに、構図や光源位置、被写界深度などの技術的要素を分解して考えます。
今回も例外ではなく、
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光源:背面LED1灯
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光質:やや拡散、輪郭にゴールドのハロ
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被写体距離:背景からの分離を最大化
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カラー構成:白系モノトーン+光色の暖
という項目で整理しました。
しかし、技術を分解しても、この写真の核心は数値では語れません。
なぜなら、この作品には「物語」があるからです。
少年は白い舞台の中央で立っています。
白は無垢の象徴でもあり、未来のページでもあります。
まだ何も書かれていない物語。
背後から射す光は、これから訪れる出来事の予兆のように感じられます。
フレアは、未来が持つ予測不能な輝きを示す小さな伏線。
彼の表情は、まだその未来を知りません。
しかし私たちは、光の向こうに“これからの彼”を見てしまうのです。
白は「何もない」ではなく、「何でもなれる」ということ。
そう考えると、この一枚は単なるポートレートではなく、“未来の肖像”です。
撮影時、私はシャッターを押しながら思いました。
この子が10年後にこの写真を見たら、何を思うだろう。
あの日の自分を思い出すだろうか。
それとも、未来の自分にエールを送るだろうか。
写真は過去を閉じ込める装置でありながら、未来を開く鍵にもなります。
白い背景に立つ少年の姿は、未来の自分に「This is it」と告げているようでした。
“これが、その瞬間だ”と。
もしこの写真に音をつけるなら、きっと無音がいい。
無音の中で、光が歌い、フレアが囁く。
シャッター音だけが、その舞台の証人になります。
そして今、プリントを手に取ると、私は少し笑ってしまいます。
光の向こうに立っているのは、確かにあの日の少年。
でも、そこにはもう、未来の彼も一緒にいるのです。
写真の中で、時間は一本の糸になり、過去と未来を結びつけてしまう。
そんな魔法を知ってしまったら、写真はもう“ただの記録”ではいられません。
白の中で踊る光。
それは、これから何にでも染まることのできる“無限の予告編”でした。
そして私は、その予告編の一部始終を、シャッターの中に確かに閉じ込めたのです。
Photo by Chiba
coordinator by Naganuma
writing by Chiba
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