店舗フォトジェニック集


Photogenic
scrollable

ロカボ

投稿日:2022/7/20     更新日:2022/7/21

2208 2

 

 

 

2006年。
Adobe社から写真現像ソフト「Lightroom」が発売された事で、写真家達を取り巻く作業環境の常識は完全に覆された。
それまで「Darkroom(暗い部屋=暗室)」でフィルムの現像作業をしていた私達は真っ暗な空間から解放され、文字通り「Lightroom」つまりオフィスやアトリエなど、明るい部屋で作業をする事が出来るようになったのだ。


しかしどうだろう。
同じく2006年。Lifestudioが生まれ、撮影現場において自然光をメインに使うようになった私達は、それまでの遮光カーテンや厚い壁で囲まれたストロボメインの同じく「暗い」スタジオからも同様に解放されたが、一方で今度はこの懐かしく新しい光に夢中になり、いつしか囚われていた。


私達は自らの意志でプラトンの洞窟から抜け出し、太陽の元で念願の自由を得たように思えたが
その実、今度は太陽の奴隷となっていたのだ。


石を投げれば写真家に当たると呼ばれたこの時代。
高校生ながらに父の仕事の手伝いで広告撮影の現場へと入り浸っていた私は、この激動の時代を間近で見てきた。現代、石がいくつあっても足りなくなってきたそれは進化というには激しく、突然変異と呼ぶにふさわしいものであったが…。


さてそんなわけで
今やすっかり炭水化物のような存在となってしまったこの贅沢な自然光をあえて断ち切り…
人口の光と、これまでと少し違った哲学の元に、少し趣向を変えた写真を生み出す事を試みる。


私はいくつかのプロセスを経て、ソクラテスでいうところの善の子供(=太陽)からひとときの間だけ逃げ切り、洞窟の奥深くへとまた戻る事を試みた。
自分、陰キャなもので…。


写真の少女。あどけない笑顔が素敵な第一印象のままに、初めは彼女の素を表現する事に努めていた。
でもなんだか、そうする事に途中で飽きてしまった私はもっと彼女の奥深くにあるエッセンシャルなものを表現出来ないか実験する事となる。


映画のように彼女を脚色してみる。
90年代のメロドラマのように、色味もシネマティックに構成する事で、彼女から垣間見える大人っぽい雰囲気をもっと引き出せるのではないか。


映画…と一言で言っても様々だが、観る者にとり一番馴染みのあるカラースキームが90年代頃から多用されるようになった[Teal&Orange]だろう。
ただし、ライフスタジオの撮影システム的に、前述のLightroom等を使ったゴリゴリレタッチができないので、物理的にTealなものとOrangeなものを画面内に集め、そうでないものを排除するという原始人みたいな事を令和の時代にやってみる事にした。


・Teal
壁(左側)。ベッド。クッション。うっすらと見える植物の葉。スキニーパンツ。


・Orange
人物の肌。ランタンの灯り。それらが反射した壁(右側)。テーブル。クッション。


この2色。
(と、無彩色)
のみで画面を構成する事で、要素を増やして世界観や物語性を構築しつつ、シンプルにまとまる。
色相環上の対岸の二人。互いに出会えないふたりだからこそ引き立て合う。


画面を見てみる。
背景は向かって左側がTeal、右側がOrangeとなるよう2分する。
しかしそのレイヤーの上に乗る人物の配色位置は正反対に、向かって左側がOrange(の肌),、右側がTeal(のパンツ)となるよう配置。
つまりTealの背景の上にOrangeの被写体、Orangeの背景の上にTealの被写体となり、人物と背景がお互いを引き立て合うように並べる。


続けて、レタッチの制限のある中、この2色を違和感なく同居させる為に必要な事がライティングだった。
Orangeのランタンの灯りが少女の顔を照らしているように表現したいが、現実には少女の顔まで光を届ける事は難しく、かつ不自然に赤く被ってしまう。


そこで色温度の異なるもう一つのライトをさりげなく被写体に当ててみる。
こちらは反対に適切よりもやや高めとなる色温度のため、そこに合わせて全体の色味を調整しようとするとOrangeが更に引き立ち、全体的に温かい雰囲気が生まれた。
(所沢店の工藤さんが、このライティングを「隠れ2灯」と名付けて下さったのを、結構気に入っている…)


人物を殊更引き立てるならもっとがっつりライトを当てる方法もあるが、あえて露出面では背景との差が大きくなり過ぎないよう微調整する。
ともすれば背景と同化してしまいそうなくらい…彼女の存在は曖昧にして、カラーマネジメントのみで際立てる。


仕上げに、不要な色は排除していく。
直前まで着ていた明るいブラウンのジャケットは脱ぎ、ベッドに置いたのが微妙に映る。
帽子も外し、色味の統一がなされたと共に共に完全にリラックスモードが再現された。
かといって完全に就寝前…というわけでもなく、あくまでも夜のリラックスタイム。
…その真相は、よく晴れた昼下がり。


大体ここまでに掛かる時間が1分くらい?
世界観を作り込む事で被写体にストーリーが生まれ、少女のキャラクターにバックグラウンドが生まれる。


人物写真の作り込み方について、改めて考えさせられる撮影となった。


Photo:Hisho Morohoshi
Coordi:Nana Tokumasu
 

この記事をシェアする

美しさを表現し、思い出を記録する、楽しい遊びの空間

人生の写真館ライフスタジオという名前に込めた想い。
それは、出会う全ての人が生きている証を確認できる場所になること。
家族の絆とかけがえのない愛の形を実感できる場所として、
人を、人生を写しています。

撮影のご予約はこちらから

スタジオ予約

お役立ち情報をお送りします

新規会員登録

Official SNS

  • Instagram
  • sns
  • Instagram
  • Instagram