Photogenic
横浜青葉店
scrollable
抽出されたイメージ ~Reiri Kuroki
投稿日:2017/7/18
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Photo by Kazuma Gomei
Coordi by Kaori Kinoshita
Write by Reiri Kuroki
@Yokohama Aoba
Coordi by Kaori Kinoshita
Write by Reiri Kuroki
@Yokohama Aoba
「五明さんって、縛られない写真を撮りますよね」とかおちゃんは言った。
分類中の写真が開いたままのPCのディスプレイを見て、私はそれに
「…うん、そうだね」と、同意した。
五明さんの写真に対して、私は「極めて挑戦的」であるという印象を持っている。
光に対して、彼は挑む。一般的な適正露出に、敢えて背を向けて。
画角に対して、彼は挑む。四角いファインダーの中のめいっぱいに、自らの意図を満たす為に。
空間に対して、彼は挑む。4年間、ほぼ毎日、色んな場所で撮り尽くされたスタジオの中のまだ見ぬ世界を求めて。
幸運なことに、私はこの写真が撮られた撮影に一切関わってはいない。だから、被写体のこの子がどんな子であったかとか、どういう撮影だったかとか、そういうバックボーンは全く把握していない。
だからこそ、この写真そのものについてシンプルに分析することができる。
そして、撮影者自身を知っているからこそ、彼の姿勢がストレートに反映されているこの写真に、強い関心を持ったのだろう。
この写真は、幾つかの写真のセオリーから大きく逸脱している。
特に、光の露出オーバーと、被写体の顔を切るフレーミングという点が顕著だ。
もし、写真館というものにマニュアルがあるのなら、そのマニュアルには載らない写真であると言えるだろう。
これは、この写真に贈る最大級の賛辞だ。
重要なのは、「撮影者の意図の為に、セオリーという枠を超えて表現すること」の部分にある。
モノクロだからこそ、ここまで露出をオーバーさせることができたのだろう。
腕のエッジが飛ぶ程の明るさを確保し、白の割合が多い中、見る者の目はその中で最も黒い部分を含む、被写体の瞳に集中する。
フォーカスはそこにある。白の中の黒、際立たされた、その存在感。
瞳のつるりとした質感が強調され、そこに宿る生命力は、この写真の中で抽出されたイメージだ。
写真大辞典の「抽象化」の中にある、
『全体を再現するのではなく、その対象のもっとも目を引く特性のひとつを表現すること』という言葉が、正にこの写真に適応されているのではないだろうか?
そして、この大胆なフレーミングも。
対を成す瞳の片方を敢えて隠し、顔全体を入れ込まずトリミングしている。
前述したように、この写真のイメージを決定づける「瞳」の存在感は大きい。
だからこそ、もう片方の瞳を入れることで、その存在感が分散する可能性を危惧したのではないだろうか。
瞳がふたつあれば、見る者の意識はふたつに向く。白の中の黒をあえてひとつに絞り、よりイメージを強固にすることに成功している。
それでいて、トリミングへの配慮も忘れない。顔をただ切るのではなく、フレーミングに角度をつけて、斜めにトリミングすることで『切れている』感を軽減している。
顔は勿論、手や足を切ることを無作為に行えば、写真の主題への集中を妨げる。しかし、手や足を意図してトリミングすることで、写真の主題がより引き立つのであれば、それは必要な構成であると言えるだろう。
言ってみれば、ポージングはいつも彼が撮影している「仰向けで、腕を額に乗せる」という(五明さん的には)定番のものだ。しかし、露出設定とフレーミングでここまでの変化を遂げるとは思いもよらなかった。
フレーミングは取捨選択だ。写真、という四角い世界の中は、限りがある。その限られた中に、何を入れ、何を省き、どのように構成するのかは、ファインダーを覗く者が総て、細部に至るまでの総てを、決定することができる。
オーバーな露出設定にすることで、シンプルな白の世界が作られた。そのシンプルな世界に、抽出したイメージを表現する為に、五明さんは被写体に近付く。余計なものの総てを排除して。
大胆に。挑戦的に。
ただ顧客のニーズを満たす為ではなく、商業写真でも記録写真でもない部分に、彼の意図はある。
即ち、表現。
重ねて言うが、写真館のマニュアルには載らない写真だ。誰にでも適応できる撮り方ではないからだ。
この被写体と五明さんの間だけで、五明さんがこの被写体を見て、感じて、自らの中に動機を持って、表現した。
この瞬間、この場でしか生み出されないものだ。
その特殊性は、汎用的でも一般的でもない。ただ、当事者の心に、触れる写真になる。
「プレイヤーでいたいんですよ」と、何かの折りに五明さんは言った。
彼は、撮影現場を楽しんでいる。少なくとも私には、そう見える。
写真を撮ることが好きなんだな、と。
だから、彼は挑む。
果敢に、不適に、大胆に。極めて、挑戦的に。
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